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北杜夫『どくとるマンボウ青春記』新潮文庫


辻邦生について調べていて、この本にぶつかった。辻邦生と北杜夫が旧制松本高校の先輩後輩だというのは知っていたが、作品中に登場しているのは知らなかった。そう言えば、中学時代に北杜夫は結構読んだのだが、この本は読んでいなかった。

太平洋戦争末期の東京から始まり、壮絶な話もあるが、基本的には北杜夫のエッセイらしい馬鹿話・ヨタ話が中心である。彼のエッセイを読むと必ず感じるのは、自分のことを笑い飛ばす精神だ。したたかさとも言えるが、そのおかげで深刻な話も気楽に読める。

タイトルに「青春記」とある通り、北杜夫の青春時代、旧制高校時代から大学時代のエピソードが中心になっている。読んでいて、何だかとても懐かしかった。当然ながら私が行ったのは新制の高校・大学だけれど、雰囲気が似ているのだ。もちろん作中に描かれる旧制松本高校のように過激ではなかったけれど、本当に似ている。私が卒業した高校は、県下の公立高校普通科では一・二を争う問題校で、日々何かが起こっていた。けれど、教員と生徒は基本的には仲が良くて、今思えば一緒に問題を起こしてたような気がする。教育委員会ににらまれた教員は、私の高校に飛ばされるって話もあったくらいで、現在だったら新聞沙汰になるようなことも多かった。けれど、本当に、私たちは毎日精一杯生きていたし、精一杯バカをやったし、精一杯後で思えば恥ずかしいようなことをやった。それが、北杜夫の描く旧制松本高校に、驚くほどよく似ている。

もしかしたら、似ているのは私の高校と旧制松本高校ではなくて、ある程度の年齢になってから振り返る「青春時代」というものかも知れない。人みな青春時代があって、それに対する思いはそれぞれだろうけれど、何か共通する部分もある。その共通部分を思い出させるのが、この本かも知れない。上記のように、基本的には馬鹿話で、笑いながら読めるけれど、読後感はしみじみとしている。それは、読者の心の中の青春時代の印象なのかも知れない。


更新:2012.12