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書誌

シリーズ
黄いろい場所からの挿話 VIII
所収
『夏の海の色』中央公論社, 1977
『夏の海の色』中央公論社(中公文庫), 1992
初出
『海』7巻8号(1975年8月号)

設定

舞台
チロルの山村のパンシオン→北フランスのヴェルヌ家の屋敷
アイテム
ひまわり
時代
私3とエマニュエルが出会って3年目(エマニュエルは修士課程2年)の夏・冬
(執筆時は1964年~1965年ごろ→菫IXで1959年~1960年ごろに変更)

人物

私(私3)
日本人。
エマニュエル
私3の恋人。次の学期に論文を書き上げる予定。
パンシオンの主人
私3とエマニュエルが滞在したパンシオンの主人。マルティン・コップの事件を語る。
クリスティーネ
愛称ティーネ。パンシオンの使用人。
マルティン・コップ
ドイツ人。スペイン内戦時に国際旅団兵士。画家。
友人
私3の仕事の関係の友人。
ニコラ・ムーラン
赤毛の青年。ヴェルヌ家の管理をしている。
ヴィクトリーヌ
ニコラ・ムーランの妻。
ニコラの父(ルイ・ムーラン?)
フランス人。スペイン内戦で人民戦線側に参戦する。内戦末期に最後の飛行機で逃げるとき、相棒に右手を切られた。
エレーヌ・ヴェルヌ
ヴェルヌ家の当主で、パリで書店を経営している。

考察

本挿話の年代

本文中の夏のシーンで、二人がチロルに滞在したのは、エマニュエルが次の学期に書きあげる論文の準備をするためであること、冬のシーンで、私はエマニュエルが論文を出したあと、どんな仕事につくか知らなかったがとあることから、この年度にエマニュエルは学部3年(フランスの大学は3年制)・修士課程2年・博士課程3年のいずれかであると考えられる。

一方、菫Iに、エマニュエルがアメリカ留学から帰ると知らせる手紙で、彼女は博士論文を書き終えたので、その年の学年末、つまり六月にパリに帰るとある。また、エマニュエルのアメリカ留学は4年に及んだが、もともとは8か月の予定であった。これから、エマニュエルはアメリカに渡ったときに博士課程2~3年であったのではないかと考えられる。本挿話はエマニュエルが留学する3年ほど前のことと考えられる(詳細は黄VIIの考察参照)ので、当時エマニュエルは修士課程の2年と思われる。

その町に住んだのは、それでもエマニュエルが大学の前学期を終えるあいだだったから、半年以上にはなっているはずである。私たちがその町を去ったのは二月の終りのある夕方でより、季節は9月~2月である。

挿話中に大学のクリスマスパーティーの話が出てくるので、クリスマスには大学のある町にいたことになる。そのため、クリスマスの休暇についての言及がある黄VIII黄X黄XIIIとは別の年である。単行本版あとがきのもちろん同色の挿話Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ・・・・・・は、ある物語的な進行を示しますし、直接物語的な進行を持たない場合には、主人公の内的発展が辿られるはずです。から、挿話の順が年代順になっているとすれば、この4回のクリスマスは次のように整理できる。

1. 本挿話のクリスマス
二人でドイツの大学のある町でクリスマスを過ごす。
2. 黄VIIIのクリスマス
私3は北フランスのヴェルヌ家へ。エマニュエルはフォントナーユの城館へ。
3. 黄Xのクリスマス
私3・エマニュエル・根室の3人で南ドイツの田舎の教会を廻る。
4. 黄XIIIのクリスマス
二人でチロルで過ごす。このときにはエマニュエルのアメリカ留学が決まっている。

黄Vの考察に書いた夏のシークエンスと合わせて考えると、夏・クリスマス両方に共通する黄VIIIを要に、次のように整理できる。

1. 私3とエマニュエルが出会って2年目(エマニュエルは修士課程1年)
夏(黄V黄VI)→冬(黄VII)
2. 私3とエマニュエルが出会って3年目(エマニュエルは修士課程2年)
夏→冬(黄VIII)
3. 私3とエマニュエルが出会って4年目(エマニュエルは博士課程1年)
夏(黄XI黄IX?)→冬(黄X)
4. 私3とエマニュエルが出会って5年目(エマニュエルは博士課程2年)
夏(黄XII)→冬(黄XIII)

3.を除き、挿話順と年代順はきれいに対応しており、おそらくこの順で正しいと思われる。

以上より、本挿話は黄V黄VIと同じ年から翌年にかけての時期と考えられる。

本挿話の舞台

本文中に、町の入口の城門の正面に昔の町の紋章が石に刻まれていた。そこには球に手をかけた二頭の獅子が表わされていてとあること、大学があること、人口が5000人ほどの小さな町であること、有名な教会があることなどが述べられている。また、カスターニエンの並木があって、私が町へ着いた頃、まだ色づいた葉が美しかったが、とあり、マロニエではなくカスターニエンと書かれていることから、明記はされていないがドイツ語圏であろう。

以上の手がかりから、ドイツの大学をしらみつぶしに捜したが、二頭の獅子の紋章の町にある大学を見つけることが出来なかった。地方行政区分の変化などで紋章が変わっている可能性もあり、本挿話の場所については保留としておく。


更新:2013.03