暮れ方の光景
書誌
- シリーズ
- 黄いろい場所からの挿話 VII
- 所収
-
『夏の海の色』中央公論社, 1977
『霧の聖マリ』中央公論社(中公文庫), 1992 - 初出
- 『海』7巻1号(1975年新年号)
設定
- 舞台
- ドイツの大学のある町
- アイテム
- 老人の飼い犬の黄色い首輪
- 時代
- (黄VIの直後の大学前期(エマニュエルは修士課程1年)
執筆時は1963年~1964年ごろ→菫IXで1959年~1960年ごろに変更)
人物
考察
本挿話の年代
その町に住んだのは、それでもエマニュエルが大学の前学期を終えるあいだだったから、半年以上にはなっているはずである。
・私たちがその町を去ったのは二月の終りのある夕方で
より、季節は9月~2月である。
挿話中に大学のクリスマスパーティーの話が出てくるので、クリスマスには大学のある町にいたことになる。そのため、クリスマスの休暇についての言及がある黄VIII・黄X・黄XIIIとは別の年である。単行本版あとがきのもちろん同色の挿話Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ・・・・・・は、ある物語的な進行を示しますし、直接物語的な進行を持たない場合には、主人公の内的発展が辿られるはずです。
から、挿話の順が年代順になっているとすれば、この4回のクリスマスは次のように整理できる。
- 1. 本挿話のクリスマス
- 二人でドイツの大学のある町でクリスマスを過ごす。
- 2. 黄VIIIのクリスマス
- 私3は北フランスのヴェルヌ家へ。エマニュエルはフォントナーユの城館へ。
- 3. 黄Xのクリスマス
- 私3・エマニュエル・根室の3人で南ドイツの田舎の教会を廻る。
- 4. 黄XIIIのクリスマス
- 二人でチロルで過ごす。このときにはエマニュエルのアメリカ留学が決まっている。
黄Vの考察に書いた夏のシークエンスと合わせて考えると、夏・クリスマス両方に共通する黄VIIIを要に、次のように整理できる。
- 1. 私3とエマニュエルが出会って2年目(エマニュエルは修士課程1年)
- 夏(黄V→黄VI)→冬(黄VII)
- 2. 私3とエマニュエルが出会って3年目(エマニュエルは修士課程2年)
- 夏→冬(黄VIII)
- 3. 私3とエマニュエルが出会って4年目(エマニュエルは博士課程1年)
- 夏(黄XI→黄IX?)→冬(黄X)
- 4. 私3とエマニュエルが出会って5年目(エマニュエルは博士課程2年)
- 夏(黄XII)→冬(黄XIII)
3.を除き、挿話順と年代順はきれいに対応しており、おそらくこの順で正しいと思われる。
本挿話の舞台
本文中に、町の入口の城門の正面に昔の町の紋章が石に刻まれていた。そこには球に手をかけた二頭の獅子が表わされていて
とあること、大学があること、人口が5000人ほどの小さな町であること、有名な教会があることなどが述べられている。また、カスターニエンの並木があって、私が町へ着いた頃、まだ色づいた葉が美しかったが、
とあり、マロニエではなくカスターニエンと書かれていることから、明記はされていないがドイツ語圏であろう。
以上の手がかりから、ドイツの大学をしらみつぶしに捜したが、二頭の獅子の紋章の町にある大学を見つけることが出来なかった。地方行政区分の変化などで紋章が変わっている可能性もあり、本挿話の場所については保留としておく。
更新:2013.03