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静かな村外れの十字架の前で


書誌

シリーズ
藍いろの場所からの挿話 XI
所収
『椎の木のほとり』中央公論社, 1988
『椎の木のほとり』中央公論社(中公文庫), 1993
初出
『海』15巻10号(1983年10月号)

設定

舞台
フランス・スペイン国境近くの村
アイテム
村外れの十字架の根元に結びつけられていた藍いろの布ぎれ・エレーヌの藍色の帽子
時代
1938年11月

人物

ゲオルグ
本挿話の主人公。スペイン内戦を離脱して、フランスのホテルにいる。
クライン
スペイン政府軍の革命委員。ドイツ人。元市役所職員。
ミゲル
スペイン政府軍の宣伝班員。ギター弾き。
石工
ゲオルグが滞在している村の住人。30代半ば。
エレーヌ
石工の妻。
メルシエ
トゥールーズから来た村役場の収入役。
ジャクリーヌ
エレーヌの従姉。
ジャクリーヌの弟
エレーヌの従兄弟。
ホテルの女主人
フロントを兼ねている。老人。

考察

本挿話の年代

本文中、カフェの奥では朝のニュースがミュンヘン会談の模様を伝えていた。より、ミュンヘン会談開催中または直後と考えられる。ミュンヘン会談は1938年9月29日・30日に行われている。

一方、本挿話の前の時期、ゲオルグがスペインを脱出する直前と考えられる藍Xには、十月末の肌寒い風がと書かれている。本挿話でのゲオルグのおれは山脈の向う側で、つい一週間前まで殺す殺されるの騒ぎに加わっていたんだの台詞と合わせると、本挿話は1938年11月ということになるが、そうすると上記のミュンヘン会談と合わなくなる。

ここでは、他の挿話とのつながりを重視して、本挿話の年代は1938年11月としておく。

本挿話の場所

本文中に地名などの固有名詞は出てこない。窓をあけると、遠く山脈は厚い雲に閉ざされなど、遠くに見える山脈に関する記述が何か所かあり、状況からピレネー山脈ではないかと思われるが、明確な記述はない。ここでは、確証はないながらも、山脈をピレネーと考え、本挿話の舞台はフランス国内のスペイン国境近くの村としておく。

ゲオルグのスペイン脱出

藍Xでは、ペーター・シュルツマルティン・コップマイヤーの3人が飛行機で脱出し、その間ゲオルグは縛られている。ところが、本挿話にはゲオルグは山脈を飛行機で越えていたときと書かれ、ゲオルグは飛行機で脱出したことになっている。

もちろん別の飛行機ということも考えられるが、藍Xでの「とにかくわれわれは国際旅団最後の飛行隊だ」のシュルツの台詞から、他に脱出に使える飛行機があった可能性は低い。とすると、藍Xの執筆~本挿話の執筆の2か月の間に設定が変わったのであろうか。あるいは、藍Xでコップは「その必要はない。ゲオルグはおれが縄で縛りつけておいた」と言っているが、実は同じ飛行機に載せていたのだろうか。これについては、他に記述もなく、よく分からない。


更新:2013.02